この話をするためには2009年から何が起こってきて、今後何が起こるのかという のを丁寧に説明しないと本当はいけないのですが、そのあたりは色々な 書籍が出ているので、そちらを参考にしてください。
お題として使ったのは、私の未発表作品である「鋼の記憶を抱いて」です。 この作品は原稿用紙400枚程度のSF小説です。 現在以下のサイトで配布/販売しています。
国際標準という点では、今後は確実にEPUBが主流になるでしょう。
しかしEPUBは現時点では縦書などの日本語書籍が要求する仕様を定めていません。
逆に言えば、横書でよければ、UTF-8またはUTF-16で日本語のEPUBファイルを作成し、
多くのビューアで閲覧することは可能です。
また、日本独自形式として、XMDFとドットブックがあります。
ユーザ登録が必要ですが、Amazon.comのアカウントでサインインできます。
原稿として利用できるのは、MS Word, HTML, PRC 形式です。 PDFも利用できますが、推奨されていません。
現状では、日本語のファイルを作成することはできません。 UTF-8形式でファイルを作成しても、Kindle側のビューアが対応していません。 私は、すべてのページを画像化する方法で原稿を作成しました。 漫画の原稿を作成するのと、実質同じことになります。
何回か試行錯誤しましたが、最終的には画像を含むHTML形式のファイルを作り、 全部zipでまとめてアップロードするのが良いようです。 以下に、私が用いた手順をまとめておきます。 と言っても、私は小説を書く時も同人誌を版組するときも、TeXで作ってまして、 あまり参考にはならないかもしれません。
まずA5の本の体裁でスタイルを設定して、PSファイルを作ります。12ptにしておいたほうが良いでしょう。
dvips -p2 -t a5 main-kindleそしてTIFFに変換します。
gs -quiet -dBATCH -r300 -dNOPAUSE -sPAPERSIZE=a5 -sOutputFile=main-kindle.tiff -sDEVICE=tiffg4 main-kindle.ps出来たTIFFをページごとに分割します。
mkdir tmp tiffsplit ../main-kindle.tiffindex.htmlを作成します。例えば以下のようなスクリプトで。
#!/bin/csh cat > index.html <<EOF <HTML><BODY> EOF foreach f (*.tif) echo "<img src='$f'/>" >> index.html echo "<mbp:pagebreak />" >> index.html end cat >> index.html <<EOF </BODY></HTML> EOFできあがったファイルをzipでまとめます。
zip ../up.zip *.tif *.htmlできたup.zipをAmazon DTPにアップロードし、previewで見えるかどうか確認します。
この方法でファイルを作ると必然的にデータが大きくなります。 Amazon DTP経由で販売する場合、ファイルの大きさが10MBを越えると、 設定できる最低価格が$2.99になるので注意してください。
一部の資料では、Amazon DTP経由の出版にはISBNの取得が必須と書かれていますが、 必須ではありません。ISBNがない場合は、ASINというAmazon独自のIDが用いられ ます。
Smashwordsは原稿のソースとしてMS-Word形式を用います。 体裁のガイドラインが提示されているので、それを読んで下さい。 特に著作権表示などは大事です。
一点問題になるのが、段落行頭のインデント(字下げ)です。
Smashwordsのガイドラインでは、Wordの字下げ機能を使ってインデントする
ようにとなっていますが、日本語の場合、行頭が括弧の場合は字下げしません
(正確には1/2文字下げる、かな)。したがって、一括してインデントを
指定するというのは正しくありません。
また、ここで指定したインデントは、ブラウザから閲覧する場合だと
正しく反映されないようです。更に、EPUBの場合はCSSに反映されるので、
ビューアの実装がしょぼいと、やはり正しく反映されない可能性が
あります(これはビューアに問題があるのですが)。
現時点では、全角空白をいれて調整するのがよいと思われますが、
それはそれで作られたEPUBのCSSで段落の最初がインデントされてしまって
いるので、まともなEPUBビューアで見ると2文字インデントされた状態に
なります。
なかなか難しいですが、現時点では妥協するしかないでしょう。
Smashwordsは少しメール交換をしたところ、非常に対応がよく、こちらの
意見も聞いてくれる(むしろ日本語の処理がどうなのかのフィードバックを
欲しがっている)ので、積極的に意見交換をしても良いと思います。
Smashwordsは提携サイトへの配信も行ってくれます。
この場合、Premium Statusに認められる必要があり、体裁や著作権表示の
チェックが厳しくなります。
提携サイトとしてiBookstoreもありますが、iBookstoreの場合は最低価格が
$0.99であり、フリーでは配布できません。
また、いくつかの提携サイトに配信するためには、ISBNの取得が必要です。
ただし、Smashwordsが無料で割り当ててくれるISBNもあるので、それを
使うというのも良いでしょう。
つまり、日本だとインディーズ出版というやりかたがほとんど行われていない (皆無ではない)ので、どうしても同人誌という扱いになってしまうわけです。
逆を言うと、日本で同人誌として出しているものを、そのまま海外の セルフパブリッシングサービス経由で、電子書籍としてISBN付けて販売する ことは可能だということになります。
また、「正しい形式」での販売が可能になるのは、EPUBの日本語対応が ある程度固まる2010年後半から2011年5月頃でしょう。 これをもってして、時機尚早と見るか、とりあえずやってみようと思うかは お任せします。
さて、問題は、EPUBの日本語対応が動き始める2010年後半までの期間です。 既にiPhoneアプリやiPadアプリの形式での書籍は販売されていますが、 これが将来EPUB形式で出版されなおすのか、非常に興味深い点です。
などとそれっぽいことを書きましたが、私の興味は「書籍IDをどうつけるか」 という一点に集約しています。EPUBでは、メタデータとして書籍ユニークな IDを記述することになっています。ISBNがあれば楽ですが、同人誌も 含めるとなるとISBNだけでは処理できません。
私は、電子書籍における出版の定義は、IDがついた瞬間である、と考えます。 それが何を意味するかは、そのIDを使ってどのようなサービスが展開されるのか、 今後の課題と言えるでしょう。